『山行記』~からだとこころの紀行文

医者であり、芥川賞作家であり、パニック障害にもなった経験がある 南木佳士さんの紀行文、
笠ケ岳~槍ケ岳、地元の浅間山、白峰三山を中心とした山行の随筆です。
山歴は50を過ぎてから、いろんな経験をなさった作者の視点がたいへん面白い作品でした。

・「どんな精神安定剤よりも、晴れた日の午前の針葉樹林の香りが、はるかに深く心身をリラックスさせてくれる作用がある・・・。」
そうそう、朝の香りはすばらしい、気持ち良い、さすが試練を超えたお医者のいう言葉は説得性がある。
・「岩をつかんで登とき、手指とはキーバードをたたくために備わっているのではなく、本来こういう使い方をするものだったのだと悟り・・・」
そうそう、手はものをつかむもの、そんでもって足はコンクリートの上を歩くのでなく土の斜面を登もの、山を歩いていると 体を使っているという、生きているっている実感がはじめて湧いてくるんです!
・「食べるもの、飲むもの、保温するもの・・・そういう雑貨を背にしょわないと生きていけない貧弱な「わたし」の前を身ひとつのカモシカがライチョウがやすやすと通り過ぎる」
なるほどね、人は自然の中ではまともに生きていけない貧弱な”生き物になってしまったんだなぁ

笠ケ岳でへばった著者は槍ヶ岳をあきらめ、弓折ケ岳の分岐で下山しようと決めますが、最終的にはそれを槍ヶ岳に再び進路を変えます。
このあたりも描写も、数年前にほぼ同じコースをとって弓折ケ岳で挫折した自分と重なった。
暑い夏でした、灼熱の路をテントを担いだあの日、双六岳と槍ケ岳をあきらめた根性のない”わたし”。
再び、稜線を漫悠しながら、弓折を超え、槍へ行ける日は来るのか!?
作者同様、チャレンジするか、諦めるか・・・再びの分岐点にたっている自分がいます。


山行記 (文春文庫)
文藝春秋
2016-05-10
南木 佳士

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<2007年灼熱の夏 弓折ケ岳から双六岳方面を望む>
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